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January 31, 2007

言葉は変わる:「お疲れさま」と「ご苦労さま」の違い



--> 前回の日記、「霧のむこうのふしぎな町」(2)からの続きです。

「霧のむこうのふしぎな町」のもともとの題名は「気ちがい通りのリナ」で、1974年の講談社児童文学新人賞を受賞しています。翌年、「霧のむこうのふしぎな町」として出版されたときも、本文の中に数え切れないほど出てくる「気ちがい」という言葉はそのままでした。「気ちがい」という言葉は今でこそ差別語・禁止用語として世間から認識されていますが、その当時はそれほどではなかったのでしょう。そうでなければ、児童文学の賞なんて取れなかったはずですから。

言葉は時代とともに変わります。クロアチア語が急速に変わっていることは以前からお伝えしていますが、今日は日本語について考えてみたいと思います。最近私がよく目にするのが、「お疲れさま」と「ご苦労さま」の使いわけに関する議論です。

現在では、下記のようなことが定説になっていますよね。

どちらも労いの言葉ではありますが、「お疲れ様です」が比較的身分に中立的に用いられるのに対して、「ご苦労様です」は「奉仕」というニュアンスが伴って、目上から目下に対して用いられる傾向が強くなっています。特に会社などではこれを目上に対して用いないことがマナーとして確立しているようです。

「疲れ」も「苦労」も類似した言葉ですが、「お疲れ様」「ご苦労様」と表現が固定して慣用的に用いられるようになり、本来の意味に別のニュアンスが伴うようになったと考えられます。

(日本語Q&A:『お疲れ様です』と『ご苦労様です』の使い分けは? - Space ALC より)

「お疲れ様」も「ご苦労様」も元々同じような意味で使われていたのが、いつのまにか「別のニュアンスが伴うようになった」ということから察すると、わたしたちよりもずっと上の世代では、使い分けないほうが普通なのかもしれません。これらの表現に対する考え方が世代によって違うのは当然とも考えられます。

ちなみに、日本で一番売れている国語辞典と謳われる三省堂の「新明解国語辞典」の最新版(第六版)では、下記のように定義されています。

ご苦労様 -- 目下の者の労をねぎらう言葉

お疲れ様 -- 同輩以下に対するねぎらいの言葉

やはり現代において、「ご苦労さま」は目下の者に対して使う言葉とされているので、目上の人には使わないほうが無難なことには間違いないようですね。お疲れ様が「同輩以下」とされているのは、おそらく、「御(お)」や「様(さま)」は丁寧語である(尊敬語ではない)ために、目上の人に使うには敬意が不十分(敬意を表したことにはならない)、ということなのかな。でも、職場などでは上司に対してでも「お疲れ様です。」が普通に使われていると思うので、それ以外になんて言ったらよいのでしょうか?^^;

January 27, 2007

「霧のむこうのふしぎな町」(2)



昨日お話した霧のむこうのふしぎな町」、久しぶりに読んだらまたおもしろかったんですが、ひとつ残念なことが。このお話は、もともと「気ちがい通りのリナ」という題名で発表され、翌年に「霧のむこうのふしぎな町」として初刊行されたものですから、本文中のいたるところに「気ちがい通り」のことが出てくるんです。少なくとも、私が小学生のときに読んだ本では「気ちがい通り」のままでした。それが、現在の版ではすべて「めちゃくちゃ通り」に変えられているんですね。昔のが好きだった者にとっては、「めちゃくちゃ通り」はどうもしっくりこないな、と。

気ちがい・気違いという言葉がなぜ現代で禁止用語になっているかは、「クロアチア語、ボスニア語、セルビア語の間の深い溝」の日記にも書いたとおり、ごもっともな理由がありますので、私がどうこう言えるものではありませんけれど・・・。

あと、文庫の表紙をよく見たら、どうやらコンピュータグラフィックスのようです。(昨日の日記に出ている写真です)だから、私が美しいと思ったあの手描きの絵の表紙とは明らかに違います。でも、中の挿絵は私の記憶にあるものと同じでした。

たいへん有名な本ですので、図書館などには昔のままの「気ちがい通り」が出てくる版が残っていると思います。読み比べるのもいいかもしれません。

追記

もっと書きたくなったので、追記になりますが書いちゃいますね。

この「霧のむこうのふしぎな町」に出てくる「気ちがい通り(現・めちゃくちゃ通り)」には、風変わりなひとしか住んでいません。それぞれとても個性的で、主人公リナもみんなのことが大好きになります。ストーリーのなかに出てくる言葉の中に、「欠点のない人間ほどつまらねえものもねえんでさ」、とあるように、ひとりひとりが愛情をこめて描かれ、気ちがいという言葉さえ良い意味で使われています。だから、わたしにとってこの人たちは、決して「めちゃくちゃ」というわけではないんです。普通の人とは全然「違う」けれど、それでいいんだ、と思わせてくれる素敵なお話です。

--> 言葉は変わる:「お疲れさま」と「ご苦労さま」の違いに続く

January 26, 2007

「霧のむこうのふしぎな町」(1)



柏葉幸子さんがお書きになった「霧のむこうのふしぎな町」の文庫本(講談社文庫)を手に入れてよく見たら、裏表紙に、「『千と千尋の神隠し』に影響を与えた、ファンタジー永遠の名作!」と書いてあるんです。巻末の解説(ほかの作家による解説)には、「あの宮崎駿監督作品『千と千尋の神隠し』に影響を与えた--そういう興味から、読んでみようと思った方、手を挙げて。」とも・・・。これって周知の事実だったんですか!私は今まで気が付きませんでした・・・。

「霧のむこうのふしぎな町」は、小学生の時に、仲の良かった友達が図書館から借りてきました。とても綺麗な絵のついたハードカバーだったので、わたしもすぐに飛びつきました。(友達も、表紙が綺麗だから借りたそうです。竹川さんという方が描いたものです。)その後、高校生のときに文庫版を買い、通学電車のなかで読み返したりしていましたが、いつのまにか失くしてしまって。先日、アマゾンで本を注文するとき、合計金額が1500円に届かなかったために、何でもいいからもう一冊足そう(1500円以上だと送料無料になる)、と考えて買ったのがこの「霧のむこうのふしぎな町」。

もう~、「千と千尋の神隠し」が大好きで何度も何度も見ているのになんで気が付かなかったんだろう!ばかばかばか!(自責)しばらく読んでいなかったからなぁ・・・ぐすん。自分で気が付けなかったのが悲しくなります。湯婆婆に会う場面の千尋とか、こんなにも「霧のむこうのふしぎな町」の主人公リナに重なるのに。

この解説には、「宮崎監督自身が『発想のきっかけをもらった』と明言している」とはいえ、「『千と千尋の神隠し』はすっぱり忘れて」読んでください、と書いてありますので、これからお読みになる方はそのおつもりでどうぞ^^;

--> 「霧のむこうのふしぎな町」(2) に続く


霧のむこうのふしぎな町 新装版 (講談社文庫)

January 4, 2007

クロアチアで最も有名な昔話とは?



大晦日の日記「親指姫」の続きです。

親指姫の童話を書いたのは、かの有名なアンデルセン。しかし、なぜ北欧出身のアンデルセンがボスニア・ヘルツェゴビナで切手になったのでしょうか。

答えは単純・・・この切手が発行されたのが2005年で、そのちょうど200年前の1805年4月2日に、アンデルセンはデンマークで誕生しました。つまり、アンデルセンの生誕200年を祝う切手だったんです^ ^ 切手の発行日も2005年の4月2日でした。

それと併せて発行されたのが先述の写真の右(大晦日の日記「親指姫」を参照)、ティンティリニッチ(Tintilinić)の切手です。ティンティリニッチは、クロアチアの童話に登場するキャラクターで、作者は「クロアチアのアンデルセン」と称されるイヴァナ・ブルリッチ=マジュラニッチ(日本語ではイワナ・ブルリッチ=マジュラニッチと表記されたりもします)、そうです、あの「ヤゴル」のお話を書いた女性です。以前も書きましたとおり、ボスニア・ヘルツェゴビナには郵便事業を受け持つ団体が3つあり(クロアチア系、セルビア系、ムスリム系)、この切手はそのうちのクロアチア系の郵便局が発行したものです。

クロアチアで最も有名な昔話は何?

かつて私たちは、クロアチアの人たちに、「最も古くて有名なクロアチアの童話(昔話)は何?」という質問をしたことがあります。日本ならば、かぐや姫とか一寸法師、舌切り雀、花さかじいさん、桃太郎、鶴の恩返し、浦島太郎、などなど、国民の誰もが知っている昔話がたくさんあって、それぞれ日本人の道徳心に深く結びついていますよね。クロアチアではどうなのでしょう。

まず、20代の人たちに聞きましたところ、グリム童話やアンデルセンのような外国の昔話しか思いつかない、と言われてしまいました。バルカン半島に範囲を広げても、全然思いつかない、と。唯一出てきた名前がイヴァナ・ブルリッチ=マジュラニッチでしたが、すごく有名だけれど実際には読んだことがないという人がほとんどでした。また、イヴァナ・ブルリッチ=マジュラニッチのことを全く知らない人もいました。

次に50代の人たちに聞くと、童話として最初に名前が出てくるのはやっぱりアンデルセンで、クロアチア独自の童話・昔話は「全然知らない・・・。」じゃあイヴァナ・ブルリッチ=マジュラニッチは?と尋ねると、「ああ、そうそう!イヴァナ・ブルリッチ=マジュラニッチね!でも、イヴァナの話は、昔話というより物語だよ。」

別の50代の人は、クロアチアで一番有名な昔話は?と聞かれてすぐに、「イヴァナ・ブルリッチ=マジュラニッチの『昔々の物語』」と答えてくれました。

イヴァナ・ブルリッチ=マジュラニッチ (1874-1938) は宮沢賢治(1896-1933) と年代が近いことからもわかるように、昔話というよりは童話とか物語に位置づけられるようです。また、イヴァナが書いた原作は、一昔前のクロアチア語で書かれているため、現代のクロアチアの子供たちには読みにくく、本物の原文で読んだことがある人は少ないようでした。母国の昔話を読みたくても、それがあまり存在しない国もあるんですね・・・。日本の昔話をたくさん読めるわたしたち日本人は、実はとても幸運なのかもしれませんよ?!

イヴァナ・ブルリッチ=マジュラニッチの『昔々の物語』という作品集の中に、私たちが大好きな「ヤゴル」というお話があります。興味があるかたは、下のリンクでどうぞ。(翻訳の後半は作業中のため未完成ですが。)

関連サイト:「クロアチアの童話」

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