この映画に関連してこんな記事を読みました。
国際女性デー:忘れられているボスニアの性的暴行被害者(IPS)
上の記事によると、「ボスニアのメディアがこの話題を取り上げたのも、映画『グルバビツァ』がベルリン国際映画祭で受賞してからのことだ。」「昨年7月国連児童基金(ユニセフ)は、ボスニアでの性的暴行によって産まれた子どもたちに関する報告書を依頼したが、理由は不明のまま出版されなかった。」という記述があり、ボスニア社会がこの問題を直視する準備が出来ていないということらしいです。私はこれを読んだとき、臭いものに蓋をするためにメディアがこの問題(ボスニア紛争中の性的暴行被害)を敢えて避けていたのかな?と思いました。確かにそういう理由もあると思われますが、単にそれだけではないようです。現地の友人に意見を聞いてみました。
先述の記事の中でも言われているとおり、「セルビアではこの問題はタブー視され、そのようなことは起こらなかったと広く否定されている」ため、こういう微妙な問題を取り上げる記者たちは(場所によっては)命がけのリスクを負う事にもなるのだそうです。ボスニア・ヘルツェゴビナには三民族が共存しており、メディアもボシュニャク(ムスリム)系メディア、セルビア系メディア、クロアチア系メディアというように三種三様で、それぞれの主張・見解が異なることが多いです。たとえば、ひとつの新聞社が何かを書いた場合、それに同意しない民族の過激派がその新聞社の車に爆弾を仕掛けたり、脅迫してきたりする可能性があり、記者やその家族が危険にさらされてしまうかもしれません。特に、首都サラエボ周辺は政治の中心でもあり、三民族の代表が出入りすることが多いので、過激派の活動も活発だそうです。メディアが書きたくても危険で書けない場合があるわけですね。その点、「グルバビツァ」は芸術なので表現の自由もあるし、国際的な映画祭で受賞したため、どのメディアも堂々と取り上げることが出来て、本当によかった!
クロアチア国内のメディアのほうが、気兼ねなく自由に発言できるそうです。そりゃそうですよね、周りはほとんどクロアチア人なわけですから反対勢力の意見を気にする必要がありません。それで、ボスニア・ヘルツェゴビナに住むクロアチア人でも、クロアチア国内のメディアを好んで読む人たちがたくさんいるようです。また、ボスニア・ヘルツェゴビナのメディアであっても、反対派が寄り付かないような場所(たとえばクロアチア系の住民ばかりが多数住む地域とか、セルビア系住民ばかりの地域など)にあるメディアならば割と自由に発言できると思います。
「グルバビツァ」が受賞する前でも、欧米のメディアはボスニア戦争の性的暴行の被害について取り上げていました。このブログでも昨年の10月5日の日記「ボスニア紛争の終結から10年たっても(2)」で取り上げましたので、そちらも参考にどうぞ。
映画「グルバビツァ」(Grbavica)の公式サイト:
http://www.grbavica.ba/ (ボスニア語と英語)(追記:リンク切れ)
監督:ヤスミラ・ジュバニッチ(Jasmila Žbanić)
日本でも・・・
戦争の問題とは離れますが、日本ではこんなニュースが出ていました。DV被害の3割「夫から」 悩める女性浮き彫り ≪半数は誰にも相談できず≫ (産経新聞)
「内閣府が14日発表した「男女間における暴力に関する調査」によると、夫から暴行や精神的な攻撃など「ドメスティックバイオレンス」(DV)の被害を受けた女性が33.2%に上った。」「「性的行為を強要された」が15.2%いた。」と報告されています。戦争のない日本でさえこんな状態なんですね。とても悲しくなりました。
内閣府の男女共同参画局ホームページに、「男女間における暴力に関する調査(概要)」(PDFファイル)が掲載されています。
ブログ内関連記事:
「サラエボの花」 (この「グルバビツァ」は、邦題を「サラエボの花」として日本でも公開されました。)