November 2, 2005

「アンジェラの灰」とキリスト教の聖人たち



クロアチアの祭日「諸聖人の日」で私が思い出すのが、フランク・マコートの自伝「アンジェラの灰」です。そのなかに、フランク少年が聖人伝に夢中になる場面があります。

アイルランドの極貧の家庭に育つ13歳のフランクが、意地悪なおじさんに言いつけられて図書館に本を取りに来ていると、雨が降り出しました。本が濡れるといけないので雨が止むまで聖人伝を読んで待つように、と司書に勧められたフランク少年は、仕方なくいやいや読み始めます。しかし、実際に読んでみると、聖人たちの人生はどんなホラー映画よりも怖かった!例えば、聖クリスティーナ(Christina the Astonishing)はなかなか死なない。胸を切り取られる刑に処されたクリスティーナは、その切り取られた胸を判事に投げつける。そのとたんに判事は耳が聞こえなくなり物も言えない盲人になった。そして矢の刑になると、全ての矢がクリスティーナの体にあたって跳ね返り、矢を射った兵士たちが死んだ。煮え返る油のなかに放り込まれたクリスティーナはその大釜のなかでラクラクとうたた寝。最後は首を切られてついに息絶えた。

いつの間にか雨が止んだことにも気が付かず、フランク少年は夢中で聖人伝を読んでいます。それを見た司書が非常に感心して、この子は将来聖職者になる素質があるかもしれない、とフランク少年の母親に手紙を書きます。普通は子供は図書カードを持てないし、ひとりで図書館に来ることも許されていなかったのに、フランク少年は自由に本を読むことを許され、全4巻の聖人伝を思う存分読めるようになりました。

このエピソードを読んで、キリスト教にほとんど縁が無い私でも、なんだか聖人伝を読んでみたくなりました(笑)「アンジェラの灰」にはほかにも愉快なエピソードがいっぱいで、欧米でベストセラーになりました。

また、この本は出来れば英語で読むのがおすすめです。フランク・マコートは、言葉の調子に気を使う人で、独特なリズムがあります(アイルランドなまりも含まれます)。でもそれが全然くどくなく、鮮明で軽快。子供の頃からシェイクスピアが大好きだったフランクは、大人になってから英語の先生になりました。

"When I look back on my childhood I wonder how I managed to survive at all. It was, of course, a miserable childhood: the happy childhood is hardly worth your while. Worse than the ordinary miserable childhood is the miserable Irish childhood, and worse yet is the miserable Irish Catholic childhood."

上は、のちに作られた映画「アンジェラの灰」でも引用されているフレーズです。カトリックのアイルランド人の悲惨な子供時代を描いた話・・・これは決して大げさではなく、本当に不幸続きの幼少時代なのですが、フランク・マコートのユーモアが沢山ちりばめられていて、非常におもしろい本です。1940年ごろのアイルランドの子供がカトリック社会の影響を受けながらどんな風に育ったかがわかります。

クロアチアのカトリックの子供はどんな風に育つのかな?

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原題:Angela’s Ashes
著者:Frank McCourt
アンジェラの灰 (上) (新潮文庫)
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Angela’s Ashes
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